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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)11607号 判決 1996年12月26日

原告

杉本和子

ほか二名

被告

渡辺賢一

主文

一  被告は、原告杉本和子及び同杉本有加に対し、各金三〇三六万六九三四円及びこれに対する平成四年七月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告株式会社冨士精工に対し、金二三五万七九八三円及びこれに対する平成五年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告らの、その余を被告の各負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告杉本和子及び同杉本有加に対し、各金六七〇二万〇六五〇円、同株式会社冨士精工に対し、金二四二二万〇〇九八円及びこれらに対する平成四年七月一〇日(事故日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告運転の自動二輪車に跳ねられて傷害を負い、その後死亡した杉本泰造(以下「亡泰造」という。)の遺族である原告杉本和子(以下「原告和子」という。)及び同杉本有加(以下「原告有加」という。)が、被告に対し、民法七〇九条ないし自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償請求するとともに、亡泰造を代表取締役とする原告株式会社冨士精工(以下「原告会社」という。)も独自の損害を被つたとして、被告に対し、民法七〇九条ないし自賠法三条に基づき、損害賠償請求している事案である。

一  争いのない事実など(証拠摘示のない事実は争いのない事実である。)

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 平成四年七月九日午前七時五〇分

(二) 場所 大阪市淀川区十三元今里三丁目二番五号交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車両 被告所有、運転の自動二輪車(大阪き一四四一号)

(四) 被害者 亡泰造(昭和二三年二月一八日生、本件事故当時四四歳)

(五) 事故態様 亡泰造が、本件交差点西詰め横断歩道付近の車道を南西から北東へ横断中、南東行き車線を走行してきた加害車両に跳ねられたもの。

2  亡泰造は、平成四年一〇月一三日、脳内出血により死亡した(甲二八)。

3  原告和子は、亡泰造の妻であり、原告有加は、亡泰造の子である(甲二)。

二  争点

1  本件交差点の信号の表示・被告の過失と過失相殺割合

(一) 原告らの主張

本件事故は、亡泰造が横断歩道の青信号に従つて車道を横断しようとしたところ、被告が赤信号を無視して本件交差点を直進しようとしたために起きたものであり、被告の一方的過失によるものである。仮に亡泰造が車道を横断しようとした際には横断歩道の信号が赤に変わつていたとしても、訴外中川車両(後記「第三 争点に対する判断の一」参照)はまだ停止中であつて、亡泰造は横断終了直前に跳ねられているのであるから、亡泰造の過失は一〇パーセントにすぎない。

(二) 被告の主張

被告が最初に亡泰造を発見したときには、すでに東西道路(後記「第三 争点に対する判断の一」参照)の信号は青であり、本件事故は、亡泰造が、横断歩道の信号が赤であつたにもかかわらず、車道を横断しようとしたことに原因がある。仮に被告に過失が認められるとしても、亡泰造は横断途中で訴外中川と立ち話をし、その結果、横断歩道の信号が赤、東西道路の信号が青に変わつたのであるから、亡泰造の過失は重大であり、五〇パーセントの過失相殺がされるべきである。

2  本件事故と亡泰造死亡との因果関係の有無・寄与度減額

(一) 被告の主張

亡泰造は、既往症として凝固能異常、肝機能障害、高血圧等があり、そのために脳内出血を起こして死亡したものであつて、本件事故と亡泰造の死亡との間には因果関係は存しない。仮に因果関係が認められるとしても、亡泰造の既往症が死亡原因となつた脳内出血に影響を及ぼしたことは明らかであり、七〇パーセントの寄与度減額がなされるべきである。

(二) 原告らの主張

本件において、本件事故と亡泰造の死亡との間に因果関係が認められることは明らかであつて、仮に亡泰造の既往症が同人の死亡に影響を及ぼしたとしても、いわゆる「ありのまま論」の適用により、寄与度減額はされるべきではない。

3  損害(特に、亡泰造の基礎収入と亡泰造死亡による原告会社の逸失利益について)

第三争点に対する判断

一  争点1(本件交差点の信号の表示・被告の過失と過失相殺割合)について

1  前記争いのない事実などと証拠(甲四、一一、二三、乙一の2、証人中川和郎、被告本人、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

本件交差点は、南東行きが三車線、北西行きが二車線の道路(以下「東西道路」という。)と南北道路とが交わる信号機によつて交通整理の行われている交差点であり、その概況は別紙交通事故現場見取図(以下「図面」という。)のとおりである。東西道路の制限速度は時速五〇キロメートルで、路面は平坦で舗装されており、本件事故当時の天候は晴れで路面は乾燥していた。

亡泰造は、本件交差点西詰めに設置された横断歩道を青信号に従つて南西から北東へ横断中、顔見知りの中川和郎(以下「訴外中川」という。)運転車両が信号待ちのため停車していたのを見つけ(同車両の停止位置は図面地点)、同車両運転席付近へ行つて同人と立ち話をした。

他方、被告は、東西道路の南東行き第二車線を時速約四、五〇キロメートルで走行中、前方三六・八メートルの地点(図面<ア>)に訴外中川と立ち話をしている亡泰造を発見した(図面<1>の地点)。被告は、本件交差点を直進するつもりであつたところ、自車走行車線が車両で渋滞していたこと、第一車線と第二車線との間(図面<ア>)には亡泰造がいたこと、訴外中川車両を路上駐車車両と誤信したこと等から、第一車線に車線変更をして訴外中川車両と歩道の間(幅約一・二メートル)を時速約二〇キロメートルの速度で直進しようとしたところ(図面<2>の地点)、訴外中川との立ち話を終えて車道を横断しようとしていた亡泰造を、前方五・四メートルの地点に発見し(図面<3>の地点)、危険を感じ、急ブレーキをかけたが間に合わず、図面<ウ>の地点で亡泰造と衝突し、同人を図面<エ>の地点に転倒させ、同人に頭部外傷Ⅱ型、全身打撲、頸部捻挫、後頭部打撲、後頭骨々折等の傷害を負わせた。

2  以上の認定事実を前提に、本件事故時における本件交差点の信号の表示について検討するに、被告本人は、被告が最初に亡泰造を発見した地点(図面<1>の地点)辺りを走行していたときは東西道路の信号はすでに青であつた旨供述するところ、その内容は、本件事故に至るまでの状況も含め、詳細かつ具体的であり、前記認定した事故状況に照らしても、特段不自然不合理な点が窺えないだけでなく、被告に対する本件の刑事事件が不起訴処分になつていること(弁論の全趣旨)をも考慮すると、右供述は十分信用できると言うべきであつて、本件事故直後に作成された実況見分調書(乙一の<2>)に信号の表示に関し被告の指示説明が記載されていないことは認められるが、その理由につき種々考えられるのであるから、そのことが直ちに右信用性を揺るがすものではない。よつて、被告本人の供述どおり、被告が亡泰造を発見したときには東西道路の信号はすでに青であつた事実を認定することができる。右認定に反する趣旨の証人訴外中川の証言及び原告和子本人の供述は、被告本人の供述に対比して採用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠は存しない。

3  以上の認定事実によれば、被告が本件交差点を直進しようとしたときには、前方の信号はすでに青であつたものの、被告は、事前に停車中の中川車両運転席付近で立ち話をしていた亡泰造を発見していたのであるから、同人の動静に十分注意して進行すべきであつたのにこれを怠り、右中川車両を路上駐車車両と軽信して、亡泰造の動静に注意することなく、同車両と歩道の間の幅約一・二メートルの道路を漫然と進行した過失があると認めることができ、よつて、民法七〇九条に基づく責任を負う。

もつとも、本件においては、亡泰造にもすでに横断歩道の信号が赤に変わつていたのに左右を注意することなく漫然と車道を横断しようとした過失があるから、過失相殺をすべきであり、その過失割合については、本件事故態様、双方の過失の内容等を考慮のうえ、被告七に対し、亡泰造三を相当と認める。

二  争点2(本件事故と亡泰造死亡との因果関係の有無・寄与度減額)について

1  証拠(甲四、二七ないし二九、五八、六八、乙二、五、九、検乙二ないし二四、証人山口和伸、証人尾崎高志、弁論の全趣旨。なお、枝番のある書証は枝番を含む。以下、証拠摘示につき同様。)を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 平成四年七月九日の脳内出血等について

亡泰造は、本件事故により一時的に意識を消失したが、西大阪病院に搬送されたときには、ほぼ意識清明の状態に回復しており、後頭部痛、頸部痛、右側胸部痛、左大腿部から下腿部にかけての疼痛等を訴え、担当医が頭部レントゲン検査等を実施したところ、後頭骨々折が認められ、頭部外傷Ⅱ型(ただし、後に頭部外傷Ⅳ型と訂正された。)、全身打撲、頸部捻挫、後頭部打撲、後頭骨々折等と診断されて、即日同病院に入院することになつた。

亡泰造は、入院初日午前中の頭部CT検査においては特に異常は認められなかつたが、同日午後の同検査において、左前頭葉と側頭葉の境目辺りに脳内出血が認められるようになつた。しかし、翌平成四年七月一〇日、右出血の増大が認められなかつたため、止血したものと判断され、以後、保存的治療が施されることになつた。担当医は、平成四年七月一六日、脳内出血の原因が本件事故による脳挫傷によるものか、動脈瘤によるものかを判断するため、脳血管撮影を行つたところ、動脈瘤は認められなかつたため、前記脳内出血は本件事故によるものであると診断した(遅発性脳挫傷性脳内出血)。

(二) 亡泰造の既往症について

亡泰造は、本件事故当時、肝機能障害(西大阪病院における平成四年七月九日の生化学・血清検査において、GOTの数値が二〇一〔正常値は八から三八〕、GPTの数値が九三〔正常値は五から三〇〕であつた。)、凝固止血能異常(右検査において、血小板数が五・五万〔正常値は一四万から四〇万〕であつた。)の既往症を有していた(なお、亡泰造は、平成三年一月九日から同四年四月八日まで、松本病院に通院して肝機能障害の治療は受けていたが、高血圧、動脈硬化の治療は受けていなかつた。)。

(三) 亡泰造の意識状態等について

亡泰造は、前記のとおり、西大阪病院へ搬送されたときは意識状態がほぼ清明であつたが、搬送当日の午後から痙攣発作を起こし、不穏状態が出現するようになり、その後、見当識障害、昼夜逆転現象等の意識障害が認められるようになつた。亡泰造は、その後も、多少軽快することはあつたものの、ほぼ同じような状態が続いた。

(四) 平成四年九月八日の脳内出血等について

亡泰造は、約二か月間、新たな脳内出血が認められなかつたが、平成四年九月八日、右脳に脳内出血が出現したほか、異常な高血圧(血圧二一二)が認められた。担当医は、歯痛時に血圧が上昇して出血した可能性があると考え、また、同月一〇日、原告和子に対し、肝機能障害による出血傾向が今回の脳内出血の原因であつて、本件事故による外傷性のものではほとんどない旨説明した。そして、同月一一日、血腫除去手術が施行された。

(五) その後の亡泰造の状態と平成四年一〇月五日の脳内出血等について

亡泰造は、その後も軽度の意識障害、不穏状態が続くとともに、高血圧が持続しており、また、同年九月三〇日、止血凝固能低下について内科で受診したところ、肝硬変と診断された。

そして、亡泰造は、同年一〇月五日、頭部左側に脳内出血が出現し、翌六日には、瞳孔が完全散大する等脳死状態が疑われた。同日、血腫除去手術が行われたものの経過は芳しくなく、翌七日、担当医は、ほぼ脳死に近い状態であり、仮に助かつたとしても植物症になること、本件事故との関係につき、外傷によつて全身状態が悪化したものであつて、本件事故と全く関係がないとは言えないこと等を亡泰造の弟に対して説明した。そして、同月一三日、亡泰造は、脳内出血により死亡するに至つた。

(六) 本件事故との因果関係に関する所見等について

(1) 亡泰造の担当医山口和伸医師によれば、亡泰造は、最初に頭部外傷による遅発性脳挫傷性脳内出血をきたし、これが亡泰造の意識状態を悪化させ、不穏状態をきたし、それによつて血圧が上昇して脳内出血を連発的に起こしたと考えるのが最も妥当であり、その際、肝機能障害等の基礎疾患が頭部外傷によつて増悪したため、凝固能異常、DIC(播種性血管内血液凝固症候群)をもたらし、これが原因となつて大量の脳内出血となつて死亡したものであつて、本件事故と亡泰造死亡との間には相当因果関係が認められるとのことであつた。

(2) 原告らが私的鑑定を依頼した服部光夫医師も、山口医師とほぼ同様の説明により、本件事故と亡泰造死亡との間には相当因果関係が認められるとの判断を示した。

2  以上の認定事実及び医師の所見等を総合すれば、亡泰造の直接の死亡原因となつた平成四年一〇月五日の脳内出血は、高血圧と凝固能異常が原因であり、本件事故による外傷性のものではないものの、右高血圧は、頭部外傷による意識障害、不穏状態等が原因であるから本件事故が影響しているものと認められ、また、凝固能異常は、亡泰造の既往症である肝機能障害及び凝固能異常が影響しているものの、本件事故による外傷等によりさらに悪化しているのであるから、やはり本件事故が影響しているものと認められ、以上によれば、本件事故と亡泰造死亡との間には相当因果関係が認められるというべきである。

被告が私的鑑定を依頼した長谷川友紀医師による意見書(乙九)には、右認定に反する旨の意見が記載されているが、同医師の意見は、亡泰造に本件事故前からアルコール性肝硬変及び高血圧があつたことを前提に記載されているものであるところ、本件において、亡泰造の既往症として右疾患が存したことを認めるに足りる証拠は見い出し難いから、同医師の意見を採用することはできず、かえつて、同医師の意見書によれば、亡泰造に高血圧の既往症が認められない場合には、本件事故による外傷性脳内出血に伴う不穏、興奮等が血圧上昇に関与した可能性があり、この場合には本件事故が亡泰造死亡に一定の割合で寄与したと考えることは可能である旨指摘されているのであるから、本件事故と亡泰造死亡との間に相当因果関係があるとする右認定を裏付けている。

したがつて、本件事故と亡泰造死亡との間には相当因果関係を認めることができ、これを否定する被告の主張は採用できない。

もつとも、前記のとおり、亡泰造の死亡には、同人の既往症である肝機能障害及び凝固能異常が影響しているのであり、本件によつて生じた損害の全てを被告に負担させることは、損害の公平な分担という損害賠償の理念に反するから、民法七二二条二項を類推適用して、寄与度減額をすべきものと判断するが、その寄与度割合については、前記認定事実等諸般の事情を考慮のうえ、二割をもつて相当と認める(原告らが主張する「あるがまま論」は、当裁判所においては採用しない。最高裁昭和六三年(オ)第一〇九四号・平成四年六月二五日第一小法廷判決参照)。

三  争点3(損害)について(計算額については円未満切り捨てる。)

1  亡泰造の損害について(原告和子及び同有加主張の損害額は各項目下括弧内記載のとおり)

(一) 治療費(一〇〇万九四二〇円) 一〇〇万九四二〇円

当事者間に争いがない。

(二) 職業付添費(七四万四一四四円) 七四万四一四四円

当事者間に争いがない。

(三) 入院慰謝料(一五〇万円) 一三〇万円

前記認定事実によれば、亡泰造は、本件事故日から死亡するまで九七日間、西大阪病院に入院したのであるから、亡泰造の入院慰謝料は一三〇万円を相当と認める。

(四) 休業損害(株式会社冨士の分・六四万円) 六三万七八〇八円

証拠(甲七、八、原告和子本人、弁論の全趣旨)によれば、亡泰造は、本件事故当時、同人の母が代表取締役を務める株式会社冨士(不動産賃貸業)において、会計担当として稼働していたところ、同社において、月額平均二〇万円の収入を取得していたことが認められるから、亡泰造に認められる休業損害(株式会社冨士の分)は、次のとおりとなる。

二〇万円×一二÷三六五×九七=六三万七八〇八円

(五) 死亡逸失利益(一億三二六九万六九〇〇円) 一億三二六九万六九〇〇円

証拠(甲五ないし八、原告和子本人、弁論の全趣旨)によれば、亡泰造は、本件事故当時、前記株式会社冨士だけでなく、原告会社の代表取締役としても稼働しており、同社における同人の収入(ただし、役員報酬を除く。)は、月額平均八五万円であつたことが認められる。そして、亡泰造は、本件事故がなければ、特段の事情のない限り、六七歳まで二三年間にわたつて、少なくとも月額一〇五万円を下らない収入を取得できた蓋然性が高いというべきであり、同人は一家の支柱であるから生活費控除率を三〇パーセントとし、中間利息の控除につき新ホフマン係数を適用して、同人の死亡逸失利益を算定すると、次のとおりとなる(なお、被告は、原告会社の経営状態はじり貧状態であつたから、亡泰造が将来的に月額八五万円の収入を取得し続けたとは思われない旨主張するが、これに添う的確な証拠は見い出し難いので、右主張は採用し難い。また、長谷川友紀医師による意見書(乙九)中には、亡泰造の生存期間、就労可能年数は五年を越えることはないと推計できる旨の指摘があるが、いずれも推測の域を出ず、確実性に乏しいと言わざるを得ないから、亡泰造の就労可能年数は依然として六七歳までの二三年間と認めるのが相当である。)。

一〇五万円×一二×〇・七×一五・〇四五=一億三二六九万六九〇〇円

(六) 死亡慰謝料(二六〇〇万円) 二四〇〇万円

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、亡泰造の死亡慰謝料は二四〇〇万円を相当と認める。

(七) 寄与度減額・過失相殺

右合計一億六〇三八万八二七二円から、前記寄与度減額により二割を控除し、さらに前記過失相殺により三割を控除すると、次のとおりとなる。

一億六〇三八万八二七二円×〇・八×〇・七=八九八一万七四三二円

(八) 損害の填補

亡泰造の相続人である原告和子及び同有加が、被告から一七五万三五六四円、被告が付保する自賠責保険会社から二七三三万円の各支払を受けたことは当事者間に争いがないから、これを前記損害合計額から控除すると、六〇七三万三八六八円となる。

(九) よつて、原告和子及び同有加に認められる損害額は、それぞれ右六〇七三万三八六八円の二分の一(相続分)である三〇三六万六九三四円となる。

2  原告会社の損害について

(一) 原告会社は、亡泰造の死亡により、以下の損害を被つたと主張するので、これについて判断する(原告会社主張の損害額は各項目下括弧内記載のとおり)。

(1) 休業損害(原告会社の分・二七二万円) 二七一万〇六八四円

亡泰造が、本件事故当時、原告会社の代表取締役として稼働し、月額平均八五万円の収入を取得していたことは前記のとおりであるところ、証拠(甲五、弁論の全趣旨)によれば、原告会社は、亡泰造が休業していた期間の給与を同人に支払つていたことが認められ、これによれば、原告会社が被つた右損害は、事務管理の法理により被告に対し請求することができ(黙示で主張しているものと認める。)、その額は次のとおりとなる。

八五万円×一二÷三六五×九七=二七一万〇六八四円

(2) 亡泰造の葬儀費(六四八万五三一四円) 一五〇万円

証拠(甲三〇ないし五七、弁論の全趣旨)によれば、原告会社は、亡泰造の葬式として社葬を行い、その費用として六四八万五三一四円を支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある損害は、諸般の事情を考慮し、一五〇万円を相当と認める(これも右(1)と同様の理由で被告に対し請求することができる。)。

(3) 亡泰造死亡による原告会社の逸失利益(一五〇一万四七八四円) 〇円

原告会社は、同社が実質上、亡泰造の個人会社であることを理由に、亡泰造死亡による原告会社の逸失利益を本件事故による損害として主張するが、原告会社が被告に対し、右損害(いわゆる間接損害)の賠償を求めることができるというためには、原告会社がいわゆる個人会社で、亡泰造に原告会社の機関としての代替性がなく、亡泰造と原告会社とが経済的に一体をなしているといえるような事情が認められることが必要であると解されるところ(最高裁昭和四〇年(オ)第六七九号・同四三年一一月一五日第二小法廷判決参照)、証拠(甲九、一〇、一三、二二、乙六、原告和子本人、弁論の全趣旨)によれば、原告会社は、昭和二四年四月一一日、機械工具の製作販売等を目的として設立された株式会社であり(いわゆる同族会社)、亡泰造の父を中心に経営されてきたが、本件事故当時は、同社の代表取締役であつた亡泰造が得意先を回る等して営業活動に従事し、同社の約六、七割の売り上げをあげていたこと、亡泰造の死亡により、同社は事実上倒産に至つたこと等の事情が認められるものの、他方、本件事故発生前の平成三年三月二一日から平成四年三月二〇日の事業年度における同社の資本金額は三三五〇万円であり、総売上高が約二億二七六八万円であつたこと、本件事故当時、同社には約八名の従業員が稼働していたこと、法人としての納税申告等も税理士が関与していたこと等の事情も認められ、これらの事情を斟酌すれば、原告会社が亡泰造のいわゆる個人会社であり、亡泰造に原告会社の機関としての代替性がないとまでは言い難いから、亡泰造と原告会社とが経済的に一体をなしているとは認められない。

よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告会社の右損害の請求を認めることはできない。

(二) 寄与度減額・過失相殺

前記の寄与度減額及び過失相殺は、原告会社に認められた損害についても行われるべきであるから、右合計四二一万〇六八四円から、前記寄与度減額により二割を控除し、さらに前記過失相殺により三割を控除すると、次のとおりとなる。

四二一万〇六八四円×〇・八×〇・七=二三五万七九八三円

四  結語

以上によれば、原告和子及び同有加の請求は、各々三〇三六万六九三四円及びこれに対する平成四年七月一〇日(不法行為日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、原告会社の請求は、二三五万七九八三円及びこれに対する平成五年一二月九日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で、それぞれ理由がある。

(裁判官 松本信弘 佐々木信俊 村主隆行)

交通事故現場見取図

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